脳みそあげます!

エンパシーって大事

曲がるカドには福来たる(1)

 こんにちは、そしてさようなら。スキナンです。
 自分のことを色々思い出しながら記事を作っているのですが、そもそもヒトの記憶ってどれくらい保たれるものなのでしょうか。当時経験したことを真にそのままに言葉にできているのか甚だ不思議なスキナンなのです。曖昧な箇所はきっと都合よく解釈されているだろうし、本当に嫌だった出来事はもうあまり思い出すことができないこともあるのです。
 でも、ある種の貴重な体験こそ書いておかないとならないような気がしてきて、書き出しているのです。スキナンみたいな変なヒトのいうことだって誰かにとっては娯楽だったり、何かの役に立ったりするかもしれないのです。
 
 今回は少しちゃんとした話にしようと思います。といってもどうせ面白おかしくなってしまうのですが……スキナンが特発性脊柱側弯症(とくはつせいせきちゅうそくわんしょう)という進行性の病気になって、対処療法を経たのちに手術をした話です。
 大丈夫、怖い内容は出てきませんよ。終盤にちょっとオペで背中を開いて金属を入れて縫うだけのことですからね!

スキナンは見た!

 そういえば、スキナンは自分の性別を明かしていませんでしたね。このブログはあまり性別が関連するような記事はないのですが、スキナンは生物学的な身体の作りとしての女に属しています。(今まであえてアイデンティティに関しては書いてきませんでしたが、書かないとわからない説明があるので)
 
 スキナンのこの脊柱側弯症が正式に発覚したのは中学1年の健康診断でのことなのですが、実はスキナンは6年生の冬前くらいに違和感に気づいていました。スキナンは中学受験をした家庭だったので、自分の身体に構っている暇はなかったのですが、自分が履いているスカートがいつもウエスト部分に傾きがあったのです。どういうことかというと、ウエストの右側だけがいつも下にずり下がってしまうのです。おかしいなぁとは思っていたのですが、スキナンはいわゆる小デブだったので、ぶよぶよした腹の肉のせいだろうと思っていました。長いスカートを履くと、片方の裾が浮いているし、ジーンズを履けば片方の足だけくるぶしが出てしまうのですが、それは背骨の傾きによって身体に左右差が出ている証拠で、紛れもない側弯症のサインでした。
 
 スキナンは受験勉強の合間に、学校でもらっていた保険手帳を読んで該当のページを確認しました。どうやら立ったまま前屈した時に背中の盛り上がり方がおかしいと側弯症というらしい、というところまでチェックしたのです。いざ鏡の前でその姿勢をとったらば、それはもう綺麗な歪み(盛り上がり)が生じていて、これは重大なことなのではないか、と思ってしまったのです。しかしもうその年度に健康診断はありませんでしたし、来年中学生になったら診断が下るだろうなと思って、家族の誰にもいうことなく普通の生活を送ったのです。

答え合わせと解答探し

 スキナンは無事に受験戦争を抜け、中学生になりました。春の健康診断を終えると、予想通りに【特発性脊柱側弯症】の診断が下りてきたのです。当時スキナンの母は相当狼狽していたのですが、スキナンは自分の予見が的中したのでちょっとばかし誇らしくもありました。スキナンの学校ではまだ側弯の症状が出た生徒が少なかったのか、医師の紹介等がなかったので、母は対応できる病院や機関を探していました。とはいえ当時はやっとインターネットが快適に使えるかどうかという頃です。まずは近場からということで、スキナンはかかりつけの病院や、駅から遠くない診療科に連れていかれました。

 スキナンはあまりその時のことは記憶にないのですが、その手頃な場所にあった病院では「大したことない」「整体で治るんじゃないの」みたいなことを言われたり笑われたりして、全然取り合ってくれなかったそうです。母は適当な対応の病院ばかりであることにキレました。怒りのあまりスキナンを半ば引きずって病院から出たこともあります。当のスキナンは病状については疎かったので、背中がグニャリとしているだけなのに大変なことになってきたなぁと他人事のように思っていました。

特発性脊柱側弯症ってどんなものなのか?

 当事者の方以外には馴染みのない名前であると思いますので、真面目に説明しておきます。
 特発性脊柱側弯症(とくはつせいせきちゅうそくわんしょう)は、思春期頃の女子に最も発症しやすい、背骨が変形する進行性の病気です(男子にも割合は低いですが発症することがあります)。発生の原因は不明とされておりますが、一部先天性の遺伝による症状もあるということです。
 
 症状としては成長段階にある背骨が、首から腰にかけて段々とねじれてS字型や弓状に曲がっていくというものです。曲がり方や程度は個人差があるので、25度前後までの軽度であれば経過観察で済みますが、後述する、治療で進行が抑えられない60度程度以上の重度の歪みが生じている場合は、整形外科手術が望ましいとされるものです。症状の進行具合にも個人差があり、手術前の治療としてはプラスチック製の専用のコルセット着用が推奨されます。進行すると、曲がり方によっては肺や内臓が圧迫され、腰痛や麻痺などが生じることもあり、日常生活に支障が出ることがあります。また、重度では明らかに上半身が歪んでいるとわかってしまうので、他人の視線が辛く感じたり、嫌な思いをする人がいることも事実です。
 
 手術を行う場合は概ねの場合、背中を切開してチタン等の医療用金属の固定具をボルトで打ちこみ、補強としてそこに腰や肋骨などから切り出した骨片を置いて、金属と背骨を癒合させていくというようなものが主流のようです。技術の進歩により、ボルトや金属の部品が変わっている可能性もありますので、術式はこれ限りではないと思います。(スキナンが手術をした時はチタンの金属棒2本を並べて、腰の骨を切ってパラパラと振りまいてボルトで締めあげてもらいました。傷の長さは背中が40センチ、右の腰に10センチくらいです)
 
 ここで注意してほしいことがあります。民間のいわゆるカイロプラクティックや整体、鍼灸などはあくまでも一時的なものであり、継続して進行を抑制するものではありません。それにどうなっても責任は取ってくれません。どうなっても構わないという人以外は検討しないでください。お金と時間の無駄です。手術が推奨されているのはまだ背骨が柔らかい成長期の頃であり、成人して背骨が固まってしまってから外科手術をするとなると、重度の場合予後も辛い思いをすると聞きます。どうか判断を謝らないでほしいと思います。ある程度進行してしまうと、治療手段は現段階では手術しかありませんので、将来を考えて選択してほしいです。

そうだ、患者会

 スキナンの母は病院の情報をしらみ潰しに漁りました。回線の遅いインターネット黎明期のパソコンもなんとか使い、近場で専門医がいないかどうか探し続け、彼女は患者の会にたどり着いたのです。脊柱側弯症の患者たちが情報を寄せ合うホームページで、現在も運営されています。紹介していいかどうか迷いましたが、情報を探している人がいるかもしれませんので載せます。スキナンの担当の先生もここに紹介されている医療機関の先生で、実際にここの先生に手術してもらいました。ここであれば信頼できますので、診療を検討される方は安心して通ってください。
sokuwan.gr.jp

 スキナンの母はここのホームページに載っている病院への紹介状を、かかりつけ医に頼みこんで、担当医療分野が違うのにもかかわらず温情で書いてもらいました。治療への切符を手にしたスキナンは、こうして専門医へ通うことになったのです。

コルセット初体験

(※記憶違いの可能性もあるので、ある程度憶測混じりで書いています)
 スキナンは当時歯医者や耳鼻科にもよく通っていて病院慣れしていたので、検診は好きでした。身長や体重を測ったあと、レントゲンもあっさりと撮れました。

 スキナンが治療を受けていた時はまだ総合病院の一角に設けられた整形外科のエリアにしか担当の先生は在籍してなかったのですが、小さな個室でレントゲンを見て一言、「もうこれはコルセットだな!」と軽くいいました。この先生はとっても、なんというか、さばけていて、まるで「夕食は鮭フライにするか」みたいなノリでしたが、その突き抜けた雰囲気が医者っぽくなくて、とても良かったのです。とにかく、診療初日でコルセット装着が決定したのです。コルセットというと、中世のあの無理やりウエストを縮めるようなオシャレ装具を想像しますが、プラスチックで型を取って作るというので、後日型を取りに行きました。

 コルセットの型は技師の方を呼んで、下着の上に包帯を巻き、上から石膏を塗って固めてからハサミで切っていくという手法で取りました。工作で石膏を使うことがありますが、あれをヒトの身体の上でやるというので、面白くて仕方がなかったスキナンは小デブの腹に生暖かい石膏がぺたぺたと塗られていくのを体験しながらダブルピースをしていました。技師の方も驚いていましたが、どうやらこういう時は辛くて泣いている子どもが多いようなのです。スキナンにしてみれば、こんな摩訶不思議な体験なんてもう一生しないでしょうから、嬉しくて仕方がなかったのですが。母もスキナンは変わっているといっていました。考えてみれば、スキナンはウルトラポジティブな性格だったようです。このコルセットが完成したら、これを四六時中身につけて生活しなければならないというのに、呑気なものです。

 できあがったコルセットの見た目は、厚さ1センチ程度の薄橙色の半透明のプラスチックが腰の下部から胸の上までを一周ぐるりと覆ったものでした。プラスチックには空気の穴がいくつか空いていて、後ろ側にマジックテープで着脱兼締め付けの調整機能がついたものでした。内側には側弯箇所に合わせてスポンジがついていて、これで曲がりを支えつつ、抑えるということでした。

 すごく簡単に説明すればプラスチックの甲冑です。擬似甲殻類です。エッビカニカニです。通り魔に刺されてもまずナイフは通らないな、と思いました。この鎧と末長くお付き合いするというのですが、毎日装着するというので、ちょっと面倒なことになったなと思いました。寝ている間以外は原則着用するとかいう、RPGの筋肉系キャラクターみたいなことが現実になってしまいました。装備すれば確かに防御力は上がるのですが、若干動きが制限されることと、何より暑いということが気になりました。スキナンが通っていた学校の制服は生地がしっかりめで作られていたので蒸れがすごくて、下にこれを身につけるのは結構抵抗がありましたが、治療は治療です。

 こうしてリアルに身体に防具を装備して、無駄に高い防御力と共に生活する日々が始まりました。

学校生活でのコルセットの思い出

 こうして始まったスキナンのコルセットでの学生生活ですが、基本的にはずっとコルセットがついたまま授業を受けて、体育の時だけ着脱するという感じでした。コルセットの着脱に当たっては、皆変わったものを着けるのは大変そうだなという目で見ていましたが、スキナンの学年の生徒は本当に一人ひとりが大人で、誰も偏見を持ったり嫌なことをいってきたりする子はいませんでした。周りの環境に恵まれていたことには今でも感謝しています。
 
 スキナンにとってはトイレに行く時が一番厄介でした。どういうことかというと、コルセットは腰の下まであるので、パンツの上からコルセットをつけないとパンツが広がって履けないのです。つまり、トイレに行くたびにコルセットからパンツを引っ張り出しておろし、またずり上げてゴム部分を中に押し込んで履かないといけないのです。コルセットの中に汗と摩擦防止のためにタンクトップのシャツも着ていましたが、年がら年中蒸れていて、痒かったのも(しかも痒くなっても掻けない)地味に辛かったです。おまけに冬場ははスカートの下にタイツを着用せねばならず、毎回トイレで孤軍奮闘していました。よくあんな面倒臭いことを続けていたものだと感心してしまいます。冬場は体育から帰ってきた時のつめた〜いコルセットも嫌でしたね。
 
 あと、これはコルセットのせいなのかどうかはわからないのですが、コルセットは胸の上部まで覆っていたので、全くといっていいほどおっぱいが成長しませんでした。さらしの上をいく強度のものが一日中巻かれていたので、やむなしですがちょっと残念かもしれません。当然ブラジャーもできず、ずっと小学生が初期に着るタイプの下着をつけていました。最終的にコルセットが外れたのは中学生が終わる頃なのですが、その頃には成長期も終わり出していたので、スキナンの第二次性徴は下半身のみになってしまった可能性があります。もしできることならアンナミラーズみたいなタイプの……なんでもないヨ。

 ついでに思い出しましたが、コルセットは腕の付け根近くまで高さがあったので、脇のおけけを伸ばしっぱなしにしていると内側に挟まって痛いということがありました。そのためスキナンのメインの手入れは脛ではなく、脇でした。
 女子には脇にそんなものは生えないというのは紳士諸君の幻想ですので、悪しからず。

経過観察とその後

 コルセットとのイチャイチャ生活を大体1年くらい続けたのですが、スキナンの背骨はわがままボディを貫いていました。ボーン・キュッ・ボーンとS字に曲がっていってしまったのです。骨だけに。身体の中でフレミングの法則が起きているみたいな感じになってきていて、好き勝手な方向に骨がうねうねしていったのです。

 スキナンが治療を始めた時は40度そこらだったのですが、あれよあれよという間に60度が見えてきてしまったので、担当の先生は「こりゃもう手術だな!」とまた「ビールにエビフライは最高だ」みたいな感じでいいました。母もスキナンもこんなあっさり手術が決まると思ってなかったので、ええっとたまげたのですが、タイミングも他にないし、夏休みを利用して手術をすることが決まりました。中学2年生にしてスキナンは人間の開きを体験することになりました。

 
 (長くなったので後半へ続きます。)